七月に入ると店内は、通常のお仏壇の展示から、お盆用品の展示になります。
一年ぶりに倉庫から展示用の提灯を出し揃え、点検し、組み立て、段に乗せます。
また、精霊棚を組み立てて、初めてお盆をお迎えになるお客様にもわかりやく見て頂けるように展示します。お盆設えは、入社以来、夏が来るたびに繰り返す私の大切な仕事の一つです。社会人になり暦通り帰省できない年も、ここで提灯を組み立て、設えを手掛けるたびに、田舎に思い馳せるとともに毎年感慨深くお盆を感じています。

 物心ついた時から、私の家でのお盆の準備は祖父と私の係で、8月13日になると祖父は裏山から笹竹を切り出し、仏壇の前に棚を組み鬼灯や季節の野菜を吊るします。私は馬牛を作ります。
「あいか、きゅうりは馬でなすは牛なんだよ。」祖父はそう言って、お盆の馬牛の作り方を教えてくれました。「あいか、みててごらん、南天の葉で耳を、トウモロコシのひげで尻尾をつけて、半分に折った割り箸を刺せば、ほら、これで曾祖父さんと曾祖母さんが帰ってこれる。」柔らかく笑う祖父を思い出すと、今でも胸がギュッとなります。

 日の傾き始める頃、祖父は庭で新聞紙を丸め薪をのせ、さっと火をつけます。幼い私はそんな祖父のそばにいるのが好きで、お盆中はどんな野山の中で遊んでいても飛んで家に帰り、迎え火を焚く祖父の隣にいつもぴったと並んでおりました。
 日の暮れかかり、ゆらゆら揺れる火を眺めながら、「ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんや大おじちゃんは、どんな人だったのかしら?私を見て好きになってくれるかしら?」などとぼんやりと考えたりもしました。
 私と祖父のお盆は、私が高校3年の秋に祖父を見送った年まで続き、その次の年からは、私が迎える係、祖父は帰ってくる係となり、祖父の代わりにまごまごと家族総出でお盆の準備をするようになりました。

 この季節、お盆を迎えられるお客様のお手伝いをしながら、毎年思い出されるのは、遠い田舎のお盆と今は亡き祖父の事です。東京の夕暮れ時に、迎え火を焚く家族を見かけると、私の父母祖母も今頃火を焚いてお盆を迎えているんだろうなと思い、私の心も祖父を迎えているような穏やかな気持ちになります。
 そして毎年願うのは、どうか、ご先祖をお迎えになるお客様方のお心が少しでも健やかでありますよう、初めてお盆をお迎えになるお客様方のお心が少しでも癒されますようにという思いです。そして来年も再来年もその先もずっと、いつかお盆に迎える側から迎えられる側になる時が来ても、いつの時代も変わらない思いが大切な人たちへ伝わります様にという願いです。                         

文責:市川 愛華