
国分寺通信 Blog
# 国分寺通信
~ざるそばの記憶~
8月のお盆の季節が近づくと、墓地に眠る父への想いが自然と深まります。普段から折にふれて墓参はしているものの、夏のこの時期は、父の面影をいつにも増して身近に感じます。
年齢を重ねてから、ふとした瞬間に父との思い出がよみがえることが増えました。共通の趣味があったわけではないのですが、なぜか「食の好み」だけは不思議と似ていました。中でも特に想い出深いのが【蕎麦】です。子どもの頃、よく父と近所の蕎麦屋へ行きました。父は季節を問わず必ず「ざるそば」を注文し、私もそれを真似てざるそばを選んでいました。本当は玉子丼やオムライスに惹かれる年齢でしたが、父と同じものを食べることで、少し大人になったような気分を味わっていたのかもしれません。父の隣で、黙々とそばをすすった時間が懐かしいです。
今でも妻と、父が好きだった蕎麦屋へ行くことがあります。父と座った同じ席で食事をすると、あの頃に戻ったような気持ちになります。一度だけ、父が珍しく「カレー南蛮そば」を注文し、七味をかけて食べていたことがありました。「ざるそばじゃないの?」と驚く私に、父は少し照れくさそうに「お前が前に食べていたのを見て、真似してみたら気に入ってな。七味を入れると味が締まっていいもんだな!」と笑って話してくれました。私が忘れていたような些細な出来事を父が覚えていてくれたことに、胸が温かくなったことを今でも鮮明に覚えています。
来年の6月、父の七回忌を迎えます。父がいなくなってから、あっという間に6年が経とうとしています。寂しさは今も胸の奥にありますが、毎日を穏やかに過ごせているのは、間違いなく父がくれた優しさのおかげだと、今、改めて感じています。少し気が早いですが、父を想いながら七回忌法要の準備を始めてまいります。そして、法要後には、家族みんなで父が好きだった蕎麦屋へ赴き冷たいざるそばをすすりながら、父に感謝を伝え、懐かしい日々の記憶にそっと心を寄せる、そんなゆったりとした時間を過ごしたいと考えています。
文責:笹木 幹人