2018年05月08日(火)

死化粧(エンジェルメイク)

 義父の葬儀から、もうすぐ1年が経とうとしている。振り返ってみると義母も義妹も4年間に渡る看病で「やり残したことはない」と言っていたこともあり、当時の義母たちの表情には悲しみと疲労感の中にほんの少しの安堵の表情もうかがえた。

 病院から自宅に連れて帰り布団に寝かせ、浴衣から普段着に着せ替えた後、本来ならマッサージやメイクを施すところであった。しかし私はあえてメイクは施さず、枕元にメイク道具を置き美容学校に通っている娘の帰りを待った。帰ってきた娘は義父の顔を見に行き枕元にあるメイク道具に気づいた。「そこにある道具を使ってお爺ちゃんに化粧をしてあげて」そして私は、「ギャルメイクにだけはするなよ!」と伝えた。義母や義妹も「それだけは勘弁して。。。やめて。。。」と笑い合い、私たち家族が明るさや親しみで包まれているのを感じた。

 娘は「生きている人の顔に化粧をするのとは違って難しいね。しかも、男の人にするのは始めてだし。」と自分の立ち位置を変えながら何とか化粧が仕上がった。義母たちも「上手、上手」と納得の顔をしていた。そして、義母は翌日から近所の人や親戚が訪問してくるたびに「孫が化粧をしてくれたの」と笑顔で話していた。きっと義父も見守っていた義母も満足してくれたと思っている。

 娘は、義父の身体に触れ何を感じただろう?美容の仕事に就く身だと知って応援してくれていた義父の亡骸にメイクをしてみて、実際に感じた事を、私はまだ聞けていない。しかし、幼少の時に祖父に肩車をされ喜んでいた娘が、二十歳を迎え死化粧を施す姿は私の心に響くものがあった。娘の心にも何かしらの響きがあったなら良いなと思う。そして、その経験が娘の人生の糧となってくれるのなら義父も私も、こんなに幸せな事はないだろう。義父から妻、そして妻と縁あって結婚した私、私から娘へと繋がり、これが“次世代を担う子供達の成長の場”であり私の伝えたい事の一つなのだと実感した。

文 責:佐々木俊已