会社での私の主な仕事は経理事務です。その他に、掛け紙や過去帳を書く仕事もしています。
掛け紙は、進物用線香をお買い上げいただいたとき、ご希望に応じて「御仏前 佐藤」のように書いてお包みしています。店内にいらっしゃるお客様をお待たせしないよう、筆ペンで、気持ちを込め、時間をかけすぎないように書いてお渡ししています。
過去帳は、古い位牌を帳面に写しかえたもので、この先の長い年月にわたり故人様のことを伝えていくものです。故人様の俗名・戒名・年齢・没年月などを、読みやすい文字で正確に書く必要があります。御依頼主や故人様に対する責任を感じながら、改まった気持ちで、筆ペンではなく筆を使って書いています。ご先祖様のお名前が沢山並んでいる古い過去帳をお預かりしてそこに書き加えることもあります。大切なものをお預かりする責任をひしひしと感じながら、過去に書いてあるご先祖様の戒名の文字と雰囲気を合わせるように仕上げていきます。回出位牌など木の板に書く場合は、滲みを防ぐため、墨を濃く磨っています。
高校生の頃から書道を続けているので、筆で字を書くのは私にとっては日常です。趣味で書いているのは主に仮名書道です。仮名書道では、
・行はまっすぐ書かず、左右に揺らし行の幅を出す。
・行と行の間隔は同じにせず変化をつける。
・同じ文字が複数回でてくるときは、形や墨色を変え て、違って見えるようにする。
上記のように書くのが美しくて良いとされています。
掛け紙や過去帳では、その「美」の基準がすべて仮名書道とは逆です。掛け紙も過去帳も、同じに揃っているのが美しく、きちんと揃えて書くべきものです。正しく読めることが大切なのです。
文字を書く仕事に向かうと、記録と芸術は全く違うということを改めて感じます。目的に応じて書き方を変える、というのは興味深いものです。掛け紙に包まれた進物線香が贈り主のお気持ちと一緒にどのようなおうちに届き、受け取ったかたは故人様のどのような姿を思い出しながらその線香を手向けるのか、過去帳がお客様のお手元に永く置かれてどのような年月を経ていくのか…大切な物を書かせていただける使命と緊張を感じながら、精一杯のものをお渡ししていきたいです。
文責:佐藤 暁子
2019年09月08日(日)